黒猫シャノとは
シャノ。
フランス語では、黒猫のことを「シャノアール」と言いますが、
早い話、勝手に縮めちゃいました。
さて、このシャノ。
最初は、とっても憎いヤツでした・・・
1992年のたぶん初夏だったと思う。
学生時代を過ごした名古屋の本山を散歩していた時だった。
住んでいたにも関わらず、
足を踏み入れたことがなかった猫ヶ洞通り。
すると程なくアンティーク家具屋が現れた。
もちろん初めてだ。
ビルの2階に位置しており、
その外階段のアプローチが独特の雰囲気。
オーナーは多分その外階段にもこだわったに違いない。
外壁は煉瓦タイルで覆われ、大きめの腰窓からは、
欧風スタイルの店内の様子が少しだけ伺えた。
私好みである。
階段を上る途中で、その腰窓に何かがうごめいた気がしたが、
「ん?ま、いいか」と、そのまま店内へ。
ヨーロッパの香り(行ったことないけれど、その当時。)だ。
革靴で歩いた時に、鈍く音を立てる音をたてるセピアの板張りの床、
モスグリーンとミルクホワイトのストライプの壁紙も、
まるでハウス名作劇場のバックグラウンドのよう。
そんな時代を伺わせる店内とアンティーク家具に酔いしれ、
しばしまだ見ぬ憧れのヨーロッパに思いを馳せていた
私の目の前を突然、黒いかたまりが横切った。
横切ったかと思った途端、今度はあろうことか私の肩めがけて飛来してきた。
最初、ロデムかと思ったが、敵はそんなに大きくはなかったようだ。
黒ねこだ!!
ビリッ・・・・!
「いてたてってってて!!!」
声にならないうめき声を挙げて、
その場にへたり込んでしまった。
しばらくは呆然としてしまったが、落ち着きを取り戻した私は、
どうやら傷を負ってしまった左肩をさすろうと手をまわした。
すると、な、なんと!
お気に入りのYシャツが、
見るも無惨にずたぼろにされていたのだ!(ような気がした)
二十歳そこそこの、まだ(ヒゲも薄く)初い青年だった私は、
公衆の面前で辱めを受けた羞恥心のはけ口に困った挙げ句、
店主に喰ってかかっていた。
店主は、いかにもめんどくさそうに私の応対をしていた。
ろくにこちらの顔を見もしない。
その態度にさらに逆上してしまった私は、
「弁償せんかい!ぼけぇ!」と息巻いてやった。
ついでに、ちょっと多めの損害賠償を請求してみた。
この「してみた」というところが
私のなんとも遠慮深いところだ。文句アルか?
これ以上、厄介事にしたくなかったのか、
被告は請求額の半分を提示してきた。
原告側としてはそれでも十分な補償額だった。
しかし悔しいので、渋々とその提示額で手をうつという
小芝居も絡めながら話は示談の方向へ。
店主は憮然としていた。
店主は全く私に謝罪をしなかったが、
この店には、私が敬愛してやまないピカソのポスターもあった。
そのポスターも今まで見たこともない衝撃を受けたほどの、
素晴らしい作品だった。
キュビズムまっただ中の作品で、
絵に一目惚れをしたのは、それ以来ない。
もちろんそれも購入しようと手にとっていたのに・・・。
無事に代わりのシャツを購入し、事なきを得た私は、
それからというもの、あの黒猫が頭から離れなくなった。
あまりによく思い出すので、
当時気に入ったモチーフがなかったこともあり、
奴を描いてみることにした。
私を襲ったあとも何喰わぬ顔をして、
窓際のチェストで外を眺めていた、
絵になる奴だった。
その店の名前は確か、「Chat-Noir」だった。
END


